腕枕で眠らせて



水嶋さんのお土産は、硝子の花束と甘いケーキだけじゃない。



送ってくれた写真と同じ、彼が見た沢山の感動。

普段穏やかな口調がちょっと饒舌になるくらい

聞いている私も、異国の空気に酔いしれるほどの、お土産話。



「チロル州からウィーンって端から端ですよね」


「飛行機で一時間くらいですよ。でもやっぱり雰囲気変わりますね」


「やっぱり音楽の街?」


「あとハプスブルク宮殿とか…」



まだまだ聞き足りない水嶋さんの旅のお話に、私が二杯目の紅茶をティーポットから淹れようとした時


ピピピピピ……


二人の耳に響いたのは、水嶋さんの胸ポケットで鳴った電話の着信音。





大人だから、分かります。


このタイミングで鳴った電話の意味。


席を外して通話してきた水嶋さんが、ちょっと哀しそうな色を浮かべて戻ってきた意味。




「すみません、鈴原さん。今日はもう予定は無いつもりだったんですが急に仕事が入ってしまって…」




やっぱり、そっか。




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