血染めの鎖

禁術を使えばどうなるか。いくら寂れた村で暮らす娘としても、どうなるかぐらいは分かる。

しかし目の前の男は、またあの柔らかな、つくったような微笑みを村娘に向けてただ一言を言うのだ。


「それが、なにか?」

「っ、……」


ああそうか。所詮、私は敵うはずもないのだ。

魔族にも、村人にも、目の前の男にも、誰ひとり。


敵わない。


「……、分かりました。救世主さま。あなたは全てお見通しというわけでございますね」


「さあ?」


「この村の秘密もすべて。わかりきった上で、そうしてお連れの方を見捨てたのですね」


「さあ?」


「…っ、ならばなぜ、ここにいるのですっ!秘密を知ったのならばっ、こんな村っ…、見捨ててもよいでしょう?!
お連れの方を見捨てたのならっ、この村を見捨てることぐらい、容易いでしょうにっ!なのにっなぜ…っ、
なぜ貴方はいつまでも此処にっ…!」


「………………、さあ?」


「……っ、ふざけないでください!」


パシンッ

肌と肌のぶつかり合う、乾いた音が響く。

村娘の目には涙がほろりほろりと浮かび、伝い、地面へと落ちていった。
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