そして 君は 恋に落ちた。


「もう逃げられないですね」


ふんわり笑った松田君。

私が身動き出来ずにいると、ゆっくりその腕を伸ばし私の顔に近づけた。



「先輩…」

笑顔が一変。
切なそうに目を細めると私の唇にその指を当てる。


口を開くことが出来なくて。
逃げる事も出来なくて……

優しく撫でるその指を振り払うことも出来ず、されるがままでいると―――


「ハルヒー」


さっき聞いた声が私を呼んだ。



返事をしない私を松田君はフッと笑い、ゆっくりその手を離す。



「瀬川さん、先輩ここですよー」


いつもの声。

背中を向けた彼の表情は分からないけど、きっと笑顔だと思う。

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