そして 君は 恋に落ちた。



「疲れた……」



小さく呟くその声に、ゆっくり彼の背中に手を回した。

そしてギュッと抱き締める。






私より、もっともっと辛い恋をしている彼を慰める術を持たない私には、ただ、抱き締めることだけで。


こんなに助けてくれてるのに……こんな事しかできないのが、もどかしい。





松田君は彼女と帰ったかな……。


私が小林君に抱きしめられてるのを見て“良かった”って。“安心した”って思ったかな?



もう、私を捕まえてはくれないのかな……







小林君のトレンチコートに顔を埋めた、その時。



―――風が動いた。




「その人、返して下さい」



小林君越しに聞こえた声に、体がビクリと跳ねる。

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