そして 君は 恋に落ちた。



「やっぱりダメなのかな……。
 私のことなんて全く眼中ないもんね」


ふふっと笑うけど。声は震えていた。



「あっちに行こう」


細い道路の向かいに軽く座れるバス停がある。

そこへ彼女の手を引き向かう最中―――

「………ック…」


彼女の足が止まった。



「藤井さん」

「ごめ…っ も、諦めなきゃダメって分かってるのに…っ
 無理だって……分かっ……の、に…」



いつも何を言われてもニコニコしていた彼女が、周りを気にせず泣いている姿に、俺は慰めの言葉が出てこない。

道の真ん中、行き交う人の中で二人佇んでいると、店から俺達以外また一人、出て来た。



「藤井さん……大丈夫だよ」

優しく声をかけ、ゆっくり抱き寄せた。



「アイツは素直になれないだけ。

 だって―――」


言い終わらない内に勢い良く腕を捕まれ、引っ張られた。


< 252 / 378 >

この作品をシェア

pagetop