そして 君は 恋に落ちた。




「ごめんな。せっかく早上がりなのに付き合わせて」

「ううん、私は大丈夫。
 だけど……実はさっきから携帯の震えが止まらないの」

ふふっ、と楽しそうに笑いトレンチコートのポケットから電話を取り出し見る彼女。
それを見て、少しあいつが可哀想になる。


「出ないと更にうるさいんじゃない?」

俺が苦笑いで言うと、「大丈夫!」と震える携帯をポケットへ仕舞ってしまった。


「だって、二人きりで初めての食事のはずだったんだよ?
 めちゃくちゃ楽しみで、お洒落してきたんだから!」


口を膨らませて怒る藤井さんは、次の瞬間にはシュンとなり、

「……まぁ、仕事だから仕方ないんだけどね。

 だから、部屋で待っててあげるの」


癪だからメールは帰ったらするけどね!

と、最後の最後に可愛い我が儘を言う彼女に、笑ってしまった。



「じゃ、帰りながらで良いから相談があるんだけど…」


そんな俺の頼みに彼女は顔を傾けた。




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