そして 君は 恋に落ちた。



……とりあえず、今は引いとくか。


掴んでいた手を離すと、待ってましたとばかりに急いでドアを開け中に入る。

……なんとも呆気ない。





俺がPCを起動している間に彼女は給湯室に向かった。

その後ろ姿を見て俺もその後を追う。



まるでウサギを追う狩りのようだと、小さく笑ってしまった。


春日さんにゆっくり近付く。


そんな俺に気付かない彼女。

その無防備な後ろ姿を見て、どうにかしてしまいたくなる。





やっと俺の気配に気づいた春日さんが、振り向いた。

驚きに変わる瞳を見て、笑顔で一歩、近付く。



「やめて…」


「何がですか?」


逃げ出すこともできないその体を両手で囲うと、か細い声で「離れて…」と、大して力のこもらない拒絶をみせた。

その細い手首を掴み、俺は微笑む―――…


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