そして 君は 恋に落ちた。

「今日午前中にここで営業会議してそのまま鍵返すの忘れてたんだ」

「は…っ?!

 ならさっさと返しに行きなさいよ!」



そう言いながら鍵を差し込む彼に、呆れを通り越して怒りが生まれた。



「だからこれ終わったら返しに行くって」

「何が終わったら?!」


私の手を引き中に入る彼の背中に疑問をぶつける。すると、彼は立ち止まりいつもとは違う目を私に向けた。

途端に固まる体。


彼はそんな私の腕を引きつけると無理やり押し入れた。


振り返ると、扉はゆっくり閉まり、彼は私を見つめていた。



「な、に…」

「あのさ、何か俺に言うこと無い?」



いつもの飄々とした空気はなく、初めて見る真顔に一瞬躊躇する。


そんな私に一歩近づき、

「俺に言う事はないか?」


再度、私に尋ねてきた。

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