トリガーポイント
…。

「咲坂。肺がんの患者さんは、症状が進んで来ると自分の身体に酸素を取り込む力が弱くなるから気をつけて観なさいよ。」

「はい。」

そう答えながらも分からない顔をしている私に先輩は続けた。

「酸素が取り込めないと、息切れが目立つようになるわ。
それが兆候よ。

あと気をつけなきゃいけないのは、がんの転移ね…。

斉藤さんは骨転移(こつてんい)だから、痺れや痛みの症状が出てるけど、脳に転移する患者さんもたくさんいるわ。

その場合に気をつけなきゃいけないのは脳のどこに転移をしたか。
脳には場所によって働きが違うから気をつけて観なきゃいけない。

例えば、認知症に似た症状が出たり、麻痺が出て、動けなくなってしまったりなんていう事もあるわ。

もしあなたが見て、その症状が明らかにひどくなってる時は、脳に転移したがん細胞…。
つまり脳の腫瘍が大きくなってる可能性があるから、早めにドクターの指示を仰ぎなさい。


咲坂。
一番大切なのは、終末期の患者さんの前で動揺したり、焦ったりしない事。

私らが動揺したら患者さんは不安になるわ。
常にそれだけは頭に置いておきなさい。」

「はい。ありがとうございます。」

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