トリガーポイント
「それにしてもアユ太郎。
ぶっさいくな顔してんな~。」

泰治さんはそう言うなり、私のほっぺたをぶに~っと伸ばした。

「お前、昔はもっと美味そうにビール飲んでたのになぁ…。」

「…。」
何を失礼な。
そう思ったけど、言い返せなかった。

確かにそうだと思ったからだ。
最近、眉間にシワを寄せたりする事が多くなったし、
前より笑わなくなった気がするのを自分でも感じていた。

それをさっき久し振りに会った泰治さんに、いとも簡単に見破られてしまった。

「お前、ツラいんだろ…?
ばぁちゃんが弱ってきてるのを間近で見てて、
ツラいんだろ?

誰も聞いてないんだから吐いちまえよ…。」

泰治さんは、優しく私に言った。

そして不覚にも私は、泰治さんの前で泣き出してしまった…。


「亜優…?」

ぼろぼろに泣きじゃくってる私の背後で、
聞き覚えのある声がした。

「大和くん…?」

っと次の瞬間、
大和くんが泰治さんに殴り掛かっていた。

「てんめぇ。
何泣かしてんだよっ!!」

こんなに怖い顔の大和くんを私は生まれて初めて見た。

「やめて!大和くん。
違うの!!」

「何が違うんだ。
亜優はコイツに泣かされたんだろっ?」

まだまだ怒りの治まらない大和くんに、えりりんが言った。

「落ち着きなさい。
大和!
大人気ないわね。
これ(泰治)は私の弟よ。」

「そうなの。
泰治さんは、元気がない私をわざわざ飲みに誘ってくれたの。」


やっと大和くんは、この状況を分かってくれたけど、
今イチ納得のできない顔をしていた。

「だいたい、亜優だってこんな時間に男とふたりで飲みに行くなんて、不用心だ。」


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