トリガーポイント
新緑
ばぁと再び2人で暮らし始めて一ヶ月。
病状は少しずつ進んでいた。


肺がんの脳転移。
終末期医療の真っ最中であるが、当の本人は極めて元気に見えた。

「亜優(あゆ)。お昼どうする?」

「ばぁ。今日は日曜日だから大和(やまと)くん来るよ。」

「んじゃ、何か食べさ行くか。」

「賛成。」

大和くんはこのばぁの家からすぐ近くに住んでいるが、平日は仕事なので来るのは決まって毎週日曜日。

ばぁも私も日曜日が楽しみだった。

ぴんぽ~ん

「ばぁ来たよ。」

嬉しそうにばぁが玄関で大和くんを迎える。
「まんずあがれ大和。お茶でも飲むか。」

「ばぁ。お茶はいいから飯食い行くべ。亜優は?」

ばぁと話しながら大和くんが居間にくる。

「亜優。今日も夜は母さん達来るから出掛けていいってよ。」


大和くんの両親つまり私の伯父夫婦は毎晩来てくれる。

ばぁの介護だけじゃなくて、私にも自分の時間を持って欲しいとの気遣いであった。

私はそれに甘えて平日の夜だけバイトに出ていた。

「ありがと。大和くん。」


「亜優。今日の夜何も用事ないなら飲みにでも行くか?」


ばぁと一緒に住んで一ヵ月になるけど大和くんに飲みに誘われたのは初めてだった。


「行く~。」

「ばぁ。夜は亜優借りるからな。」

「遅くなんねぇうちに帰ってこいよ。」


「分かってるよ。」

私は嬉しくてたまらなかった。

大和くんと2人で出掛けるなんて、大学の時から数える位しかない。


何着ていこうかな…。
こないだ買ったワンピース、それともデニムのミニを着てみようかな。
< 5 / 32 >

この作品をシェア

pagetop