私が死んだら、1つの命が助かった。
「ヒヨリ」
靴を履き替えていると、後ろからさっきの声がまた、私を呼んだ。
「何」
「ノート見せて」
物欲し気に手を差し出してくる慶一の手にイラっとして慶一の上履きを置いてやった。
「やですー」
「はぁ?」
「たまには自分でやんないとわからないよ?」
「わかってるから、貸して」
「………」
溜息を吐いて「教室でね」と呟いてまた歩き出す。
それに慶一はついてきて、いつの間に居たのか知らないが、京介がニヤニヤしながら歩いてた。
「はい。」
「さんきゅ」
慶一は笑って私の前の席に座ってノートを写し出す。
慶一の笑顔はカワイイ。
片方だけだけど笑窪ができて、八重歯が覗く。
何だか、犬が笑ったらこうだろうな、と思うような笑顔。
………いや、褒めてるよ、これは。
ちなみに、京介は隣だ。
絶対に慶一と京介が何らかの方法で仕組んだんだろうな、と思った。
別に、何を言うこともしなかったけど。
「慶一くんはノート写しも出来ないんでちゅかー、かわいそうな子でちゅねー」
「うっせぇよ」
慶一はギロッと一回振り向いて京介を睨んだ。
京介は「おー、怖い怖い」何て言いながら戯けたように手を上げて笑う。
「慶一って、頭いいのにノートは私の写すよね」
頬杖をつきながらそう言うと、慶一はバッと後ろを向いた。
「ば、そんなんじゃねぇよ‼取るのがめんどクセぇんだよ‼別にわざと取らない訳でもねぇし‼」
急に大声で話し出した慶一にビックリして思わず目を見開いた。
「慶一、自爆してるから」
京介が爆笑しながら慶一に言うと、慶一はハッとしたような表情をしてから溜息を吐いた。
「………も、黙っててくれ」
「うん、うん」
京介は目に溜まった涙を拭って笑いを堪えていた。
「今日は何かあるかな」
独り言のように呟いた言葉は、誰にも聞かれることなく、空気へと気体として入り混じった。