潔癖症の彼は、キスができるのですか?
大窪くんは壁の一部分を除菌シートで拭いてから、また私を壁に追いつめた。
「……いや、あの。壁に触りたくないなら無理しなくても」
「だって山口さん逃げるじゃん。手は繋いだら振りほどかれるし、これしかないし」
うう~。ダッシュで逃げ切るのは無理そう。かと言って、今起きてることを話すのは、絶対にイヤ。どうやって切り抜けようか考えていると、大窪くんの親指が私の唇に当てられる。
「強く擦った? 乾燥して荒れてる。珍しいね」
それは、夏樹って男の子にキスされて、昨日はずっと唇を拭ってこすっていたから。
「手を繋ぐのはダメでも、唇には触れていいんだ?」
大窪くんのさみしそうな笑みに胸がズキンと痛んだ。完全に私は一番大切な人を傷つけてる。
私は、ギュウっと、大窪くんの腕のシャツにしがみつく。
「大窪くん」
「何?」
「――キスして」
大窪くんにキスしてもらったところで、決して昨日の出来事が消えるわけじゃないけど。私がどれだけ大窪くんのことが好きで。不安になってるだろう大窪くんに少しでも、自分の気持ちを伝えたくて。安心してほしくて。恥ずかしかったけど、初めて自分からキスを求めた。