潔癖症の彼は、キスができるのですか?
ああ、このままキスの余韻に浸っていたい。キスしている時だけは、何もかも忘れて、大窪くんとふたりだけの世界でいられる。でも、そんなものは非現実的。幸せな時間は必ず終わりはくるんだ。
優しいキスをくれた彼は、ゆっくり唇を離すと、私を愛しむような目で見つめてくる。キスは初めてじゃないのに、今まで以上に私の心臓は激しく動く。
「……山口さんが言いたくないなら、無理には聞かない」
そう言って、大窪くんはズボンのポケットからリップクリームを取り出す。そして私の荒れた唇にソッとリップクリームを押し当てた。
「でも、危険な目に遭ってるなら、絶対話して。約束できる?」
下唇から上唇へと丁寧にリップクリームを滑らせる。こんな些細な言動にもドキドキして、私、気絶しちゃいそう。
「うん。約束。私、大窪くんのこと大好きだから。だから頑張る」
「何を頑張るのかを教えてほしいんだけどね」
「……ごめん」
大窪くんはこれ以上、何も聞いてこなかった。大窪くんの優しさ。無駄しないためにも、私は頑張る‼ この日、手を繋いで帰れなかったけど、ほんの少しだけ、お互いの気持ちが近づけた気がした。