潔癖症の彼は、キスができるのですか?
「そんな事、できるの⁉」
「俺、天才だから~。できちゃうの」
このバカにしたようなしゃべり方をする奴が、そんな映画のようなことができるなんて……。でも、進学校に通っているのは事実。校則が厳しい学校で、グレイのアッシュ系に染色された髪で堂々と学校に通えているのは、学校側も注意できないくらいの優秀な人材ってことなのかもしれない。
「さっきの質問に答えるから……消して」
「いいよ~。言うの恥ずかしいなら、近づこうか?」
「……うん」
さすがに、たくさんの学生が行き交う場所で"処女です"なんて言えない。私はキュッと唇を噛みしめた。夏樹が背の低い私に合わせて、体を寄せてきた次の瞬間。
――グイッ‼
「きゃっ!」
私の体は夏樹から引き離されるように後退して、ふわりと微かに香るゼラニウムの腕が私の体を包み込んだ。
「お、大窪く……」
な、なんでこんなところにいるの? ていうか、いつからいたの? 完全にパニック状態の私は言葉が出てこなくて、先に口を開いたのは笑みの絶えない夏樹だった。
「もしかして、琴音ちゃんの彼氏~?」
「だったら、なんだよ?」
……大窪くんの低い声が、怒りを含んでいることは、バカな私でも分かった。