潔癖症の彼は、キスができるのですか?
「じゃあね、夏樹くん」
さっさとこの場を離れよう。そう思ったのに、夏樹は飴をまた咥えて、にっこりと笑う。
「彼氏彼女なのに、名字で呼び合ってるんだ。友達の俺たちは琴音ちゃん、夏樹くんって名前で呼び合う仲なのに。おもしろいね~」
「お、面白くないわ! 大窪くん、行こう!」
最後の最後に大きな爆弾を落としてきやがった。ケバマツゲなみに、あの男も性格が悪い‼ 隣を歩く大窪くんの顔が怖くて見れないよ。心臓がドクドクとうるさい。緊張から、手に汗が滲み出る。
「……バス」
「え?」
「バスから山口さんの姿が見えたんだ。思わず、ひとつ先の停留所で降りて、ここまで歩いてきたら、あの男が山口さんに近寄ろうとしてたから、咄嗟に引き離したけど……邪魔したようだね」
「大窪くん……?」
「いい雰囲気だったのに、突然入ってきてごめんね」
「……本気で言ってるの?」
「本気だったら怒るの? 山口さんが? 俺を?」
……怒れるわけがない。もし私が逆の立場だったら、私も大窪くんに意地悪なことを言っている。たとえ、本心じゃなくても。そう、大窪くんは本心で言ってない。どこに夏樹の言った言葉の怒りをぶつけていいか、分からないんだよね。