潔癖症の彼は、キスができるのですか?



「ありがとう」

「え?」

「わざわざバスから降りてきてくれて。ビックリしたけど、嬉しい」


ここで喧嘩なんてしたら、ケバマツゲの思うつぼ。だから笑った。笑ったけど。大窪くんはやっぱりまだ笑ってくれなくて。


「……俺は降りなきゃよかったって後悔してるよ。あんなとこ見たくなかったから」

「だよね。ごめんね」

「時間を無駄にした。ギリギリ、ホームルームに間に合うかな」

「あ、私、バス代もないんだ! 大窪くんは急いでバスに乗って! 私は歩いて行くから」


そこまで言うと、ずっと顔を合わせてくれなかった大窪くんが立ち止まる。そして、冷めた目つきで私を見下ろしてくる。


「……んで」

「え?」

「なんで怒らないわけ? 俺、今すごく酷いこと言ってるのに」



……やっぱり。苦しそうな大窪くんの声に胸が苦しくなる。泣いてしまいたい衝動にかられたけど、グッと我慢した。



「本心じゃないって、分かってるから。酷いことって自分で言ってる時点で、罪悪感で胸を痛めてるでしょ。ごめんね。言わせてる私が悪いの。だから、怒らない」


大窪くんの表情は変わらない。ふたりでその場に立ち尽くしていると、ふらりと大窪くんが私の前を横切って。


――ガン‼‼


郵便ポストに自ら頭突きした。



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