潔癖症の彼は、キスができるのですか?
「あいつの言う通り。俺らはまだ、名前で呼び合ってない」
確かに。でも、ずっと名字で呼び合っていたから。付き合ってすぐに、下の名前で呼び合うのは簡単なようで難しい。だから、変わらず名字で呼んでいた。
「そういうのって、自然に変わっていければいいなって思ってたから。でも、あいつが山口さんのことを琴音ちゃんって呼んでいるのがムカついてしょうがない」
「わ、私は夏樹くんの名字は知らないから夏樹くんて呼んでただけだから!」
「へえ。名字も知らないんだ。本当にあいつ、友達?」
ウッと答えに困る私を見て、また大窪くんは吹き出した。
「昨日は、山口さんが話したくないなら無理には聞かないって言ったけど。どこまで我慢できるか分からない」
「大丈夫だよ」
「え?」
「放課後。今日の放課後で、夏樹くんとは絶交する予定だから」
「絶交?」
「うん。二度と関わらない。だから、心配しないで」
私の力強い言葉を聞いて、大窪くんは一瞬の間を空けて、ふわりと笑った。
「そっか。そしたら、手も繋げるの?」
「うん! もう大窪くんがうざいって思うくらい、くっついて手繋ぐよ!」
「うざいなんて思う日はこないよ。きっと、一生」
即答する大窪くんの言葉に、かあっと顔が赤くなる。こ、こんなんで私、平常心で大窪くんと手を繋げるのかな。本当に……私って大窪くんのこと好きなんだな。
「行こう。次のバスが来る」
「あの、だから私、お金が」
「それくらい俺が出すよ。俺が山口さんを置いて、ひとりでバスに乗ると思う?」
思わないけど。
「ありがとう。明日、返すから」
「いいよ。そのかわり、ひとつだけお願いしていい?」