潔癖症の彼は、キスができるのですか?
そうか、そうだよね。そんなうまい話があるわけない。だけど。
「どうする? 選択肢はひとつしかないけど~」
「そうだね。私の答えはひとつだよ」
「交渉成立だね。じゃ、行こうか」
「――あんたなんかと、エッチするわけないでしょ。キスでさえ、気持ち悪かったのに」
ベンチから腰をあげた夏樹は、私の答えに目を見開く。私は無表情で夏樹を見る。がっかりなんてしてない。絶望だってしてない。私の本当の闘いはここからだ。
「マジで言ってんの? 俺以外にどうすることもできないこの状況で」
「準強制わいせつ罪と恐喝罪で、警察に被害届を出す」
「へー。この俺を脅すんだ~。琴音ちゃん、おもしろいよ。でも、残念。あのキスは合意だって言えばお咎めなしだから。恐喝だって、証拠はないし」
そんなことない。あと少し。私は表情を崩さないで、言葉を続けた。