潔癖症の彼は、キスができるのですか?
「でも実際に今朝、私にお金を要求したじゃない! 私の財布の中が空っぽなのが立派な証拠だよ!」
「あはは~。あんな小銭で恐喝って言われても~。琴音ちゃんの財布の中身なんて誰も知らないんだから、証拠になるわけないじゃん」
「確実な証拠があるって言ったら?」
「ないよ。俺はそんなヘマしませ~ん」
私は一歩、後退る。そして、ポケットからICレコーダーを取り出した。今までずっと笑っていた夏樹が初めて目を細めた。
「今までの会話、すべて録音したから。夏樹くんがハッキングできること。私からお金をまきあげたこと。写真を消す代償として、私とエッチをすること。立派な脅迫と犯罪だよ」
「……へー。探偵みたいなことして、やっぱりおもしろいよ。俺、琴音ちゃんのこと気に入った」
夏樹がゆっくりと近づいてくる。きっと、ケバマツゲのようにこのICレコーダーを取り上げて、会話を消すつもりなんだ。でも、私は逃げなかった。
「近くに大窪くんが私たちのこと、見てるよ。少しでも夏樹くんが私に触れようとしたら、助けてってお願いしてるから」
「用意周到ってやつね~。殴られるのもイヤだけど、殴るのも自分の手が痛いからやだな~」
夏樹はまたベンチに腰掛ける。私もICレコーダーをポケットに入れた。油断して、取り逃げされたら元も子もない。気はまだ抜けない。