潔癖症の彼は、キスができるのですか?
も、もしかして、殴るの? でも、夏樹が私にしたことを大窪くんは知らない。理由も分からず、手はあげないよね。ドキドキしながら、大窪くんの後ろ姿を見つめた。
「もう二度と山口さんに近づくな」
「指図されんのキライ~。だから、言うこと聞かな~い」
「お前、ふざけるなよ!」
――グイッ‼
「え?」
それは一瞬の出来事。夏樹が大窪くんの首に両腕をまわして、自分の顔へと引き寄せる。そして、ふたりの唇が重なる瞬間をばっちりと見てしまった。時間にして3秒ぐらい。大窪くんは、突然のキスにかたまって、夏樹は大窪くんの首に両手をまわしたまま、ニッコリと笑う。
「あんまりキレないでよ。俺も被害者のようなもんだし~」
「ッ……! 離せ!」
我に返った大窪くんは、夏樹を振り払う。そして、手の甲で唇を何度も拭った。
「じゃあ、またね~。あ、琴音ちゃん、忘れ物~」
そう言って私の手に落とされたものは、今朝取り上げられた防犯ブザーだった。
「お金も返してよ! 183円!」
「めんどくさいな~。200円でいい?」
「おつりの15円持ってないから、きっちり返してよ!」
「17円だよ。これくらいの暗算は正解しようよ。てか、彼氏、えづいてるけど大丈夫~?」
え? 夏樹に言われて初めて気付く。大窪くんの顔が真っ青で……口を手で覆って今にも嘔吐しそうな状態だった。