潔癖症の彼は、キスができるのですか?
大窪くんの背中をさすっていると、大窪くんは濡れた口元をハンカチで拭って、悔しそうな表情でボソッと呟く。
「あいつ……舌入れてきやがった」
「…………へ?」
舌? ディープ……キスってやつ? 放心状態になる私。だってだって。
「わ、私達でさえ、まだなのにっ‼」
大窪くんの初めてを夏樹に奪われた……! あ、い、つ! まじで許せない! 私は怒りがフツフツと湧き上がってきて、夏樹の去って行ったほうを睨み付ける。
「夏樹~‼‼」
「え、ちょっ! 山口さん⁉」
走って追いかけようとした私の手首を大窪くんが掴んできて、強引に引き止められた。
「離して! 一言文句言ってくる! ううん、一言じゃ足りないけど」
「いや、もうあいつとは絶交したんでしょ。関わらないで。俺は二度と会いたくない。思い出しただけで、吐きそうになる。でも……」
スッと大窪くんの目つきが変わる。怒りを含む冷めた目に、ハッと息をのんだ。
「――次、会った時は、きっと殴ってる。自分でも抑制できなきくらいボコボコに」
「そ、それは私も分かるけど、暴力は……」
言いかけた瞬間、大窪くんが私の手首を自分の体に引き寄せて、腰に手をまわした。一気にふたりの距離が縮んでビックリする間もなく、大窪くんの親指が私の唇に触れる。
「荒れてた唇。キレイになったね」
「……」
やばい。大窪くん。気付いた。気付かれた。私が……。
「あいつに、キスされた?」