潔癖症の彼は、キスができるのですか?
「…………」
「無言は肯定ってこと?」
「む、難しい言葉、使わないで」
「明日は俺も荒れてると思う。好きでもないヤツからキスされたら、気持ち悪くて唇、擦るから。あの日、唇が荒れてたのはあいつからキスされたから……違う?」
唇を触れていた親指が、顎におりてきて,上を向かされる。自然と、目が合う。私は動揺を隠すように、笑った。きっと、ひきつっているだろう笑顔で口を開く。
「考えすぎだよ」
「無理やり、笑わせているのは俺のせい?」
「え?」
「俺が相手をボコボコにすると思って。俺が謹慎をくらわないように、今回のこと黙ってた?」
な、なんて答えればいいの? 下手な嘘は通用しない。全部当たってるから。でも、ここで認めてしまったら、大窪くんは夏樹を殴りに行っちゃうのかな。それだけは、やだ。私のせいで……。
「山口さん……?」
気付いたら、笑いながら泣いていた。涙が頬を伝って、自分でも止めることができなかった。
「ごめんね。私、トロいから、避けられなかった……。上手に嘘をつける性格だったら、大窪くんを巻き込むこともなかったのに。イヤな思いをさせずにすんだのに……ごめんなさい」
どうしてこんな不器用なんだろう。自分の性格がキライ。情けなくて、悔しくて、大窪くんに申し訳なくて、涙が止まらない。