潔癖症の彼は、キスができるのですか?
キスしてよ
「どーいうことだよ‼ 山口琴音ー‼」
翌朝。ケバマツゲの悲痛なおたけびが、教室内に響く。全く機能しなくなったスマホをかざしながら、私につめ寄ってきた。
「昨日の夜、スマホがぶっ壊れたんだけど! パソコンからも変な音がして、すぐにシャットダウンしたのに、ウイルスにやられてデータが全部消えてるし! あんたが何かしたんでしょ⁉」
「私じゃなくて、夏樹だよ」
「夏樹⁉ あんた、いくらで取引したのよ?」
「……183円」
「はああああ‼⁉」
怖い。すごいキレてる。周囲の目なんか気にせず、私の胸ぐらのシャツを掴んで叫びまくってるケバマツゲの横を前触れもなく、何かが勢いよく飛んできて、壁に当たって床に落ちた。
「……タ、タオル?」
何で濡れたタオルが飛んでくるの? 顔をあげると。
「――汚い手で山口さんに触るな」
明らかに負のオーラを身にまとった大窪くんが立っていた。
……マスクをつけて。
やっぱり、昨日の夏樹とのキスで唇をこすりまくったんだろうな。