潔癖症の彼は、キスができるのですか?



リップのフタを取って、大窪くんに手を振り上げると、ガシッと両手首を掴まれて、いとも簡単に私の動きは止められた。それでも力で押しきろうと足を一歩出す。


「ごめんって。いつもの冗談じゃん」


ははッと爽やかに笑う大窪くんは、私の攻撃をまるで赤ちゃんをあやすかのよう。力の差は歴然ですね。そうですよね。


「もういい!!」


プイッと顔を背けて、自分の唇にリップを当てる。ほんのり桃の香りがして、急に桃のゼリーが食べたくなる。コンビニに寄って買って帰ろうかな。


「怒った?」

「怒ってるよ」

「どうしたら機嫌なおる?」

「……桃のゼリー食べたい」

「あ、偶然」


え?


不意に大窪くんを見上げると、耳にかけてあるヒモを手にかけて、マスクを取った。大窪くんのケアがよかったのか、思っていたより荒れてない。形のいい唇を見つめていると、右手を引かれて腰に手をまわされる。



驚く間もなく、チュッと唇が軽く触れた。
< 90 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop