なんか、ごめんね。
帰り道、私のとなりにはなぜか図書室であったあの人といた。
名前は朝倉晴文というらしく、どうやら図書委員の委員長らしい。
朝倉晴文は変な人だ。少なくとも私はそう言える。何度も何度も私を「キノサダさん」とイントネーションが狂った読み方だ呼ぶものだからなんだか頭にきて、「紀之定」くらい普通に呼んで欲しいと言えば困ったように笑って「じゃあ下の名前で呼んでもいいかな?」と言ったものだからわけが分からなくなって許可してしまったくらい。
そもそも私はこんな人は知らなかったのだ。それなのになぜ私の名前を知っていてこんなにも親しげに話かけてくるのか全く分からず、正直今は混乱している。
人と話すのなんてただ一人の友達以外あまりいなかったのに、どうもこうぺらぺらと話しかけてこられるとこちらが悲しくなってきてしまう始末だ。
というかなぜ私はこの人と一緒に帰っているんだろう。
「キノサダさん」
「違う、紀之定。」
「あぁ、ごめんね。俺正直キノサダさんって呼びづらいなって思うんだけどさ、みんなは普通に呼んでるの?」
「私は・・・、友達も少ないから。だから名前なんて呼ばれることもないよ。でも友達には下の名前で呼んでもらってる」
信号を待っている今でもこの人は話しかけてきた。
しつこくはないけれど、なんだか自分がちゃんと話せているかが気になってあまり会話の内容が読めていない。
「じゃあ俺も下の名前で呼ぼうかな」
またへらりと笑いながらそういうその人はそう言うが、私はさっき許可をしたはずなのにまたなにを言うんだろうか。と、その笑顔を見つめながら思った。
「いいって言ったよね、さっき」
「だってキノサダさんなんだか雰囲気怖いんだもん。喋りかたもあんまり感情こもってないし・・・あ、もしかして俺と話してるのつまらない?」
「・・・どうしてそうなるのさ」
ころころ変わる表情に変な感情を抱きつつ、少々呆れながらそう言ってみるとその人はまたパッと笑いながらじゃあ俺のことも下の名前で呼んでいいよ、と柔らかい声で私に言った。
夕日の光も沈み、あたりがだんだんと暗くなって道も確認できなくなってくるのに、なぜかこの人の笑顔だけはちゃんと確認できるような気がして小さな声で変なの、と呟く。
その人は気づいてはいないようだったが、柔らかな表情でこちらを見るとなんでだか暖かくなる気がした。本当、わけがわからない。
男の人と帰るなんて、「彼」以外今までいなかったのにいきなりこうしてみるとおかしな気分だ。この人は「彼」じゃないのに。
「ねぇ、政。」
まつり、と私の名前が呼ばれる。
柔らかな声に顔を上げると、やっぱり微笑んでいるその人の顔がそこにはあった。
「なに?」
「晴文、って呼んでみてよ」
相変わらず微笑みながらそういうその人は、なんだか楽しそうな顔でこちらを見ている。
なんで私がわざわざそう呼ばなくてはならないのか、と少し面倒くさい気もしたがその人の名前である朝倉晴文わ思い出してみる。
晴文、はるふみ、ハルフミ。
何度か心の中でよんでみるとなんだかどこかくすぐったくて、言うのが少し変な気分がしてつらくなった。
「彼」の名前も呼んだことないのにね、と自分に言ってみてもそれはもとろん誰かが答えてくれるわけでもなくて。
ただ虚しく自分の中に響いて溶けるように消えた。
「・・・晴文」
少し間をあけて言うと、その人は照れくさそうに笑って私の髪がぐちゃぐちゃになってしまうほど頭を撫でる。私は訳が分からなくてなにするの、と言えばその人はなんでもないよといって手を離した。
頭の上から手の温もりが消え、髪を直している間もその人は小さく微笑んだまま。
どうしてそんなに笑うのかも分からない私にはあまりいいものには思えなくて、作り笑いをしているのではないかとも思うがもしそうだったらこの人にはすごい演技力がないとできないと思う。自然な笑顔には裏も表もなくて、でもなんだか大人っぽい純粋さがある気がした。
私にはそう笑うことは恐らくできないかと思う。
そりゃあ、面白いことがあれば笑うのかと思うけど、ことあるごとに微笑んだり、大きく笑ったり、悲しんだり、なんてできない。
しかもそれは純粋なものだなんてなおさらだ。
そんなことを考えていると、その人がまた口を開く。
「実は俺下の名前で呼ばれたこと、あんまりないんだ」
「親にくらい、呼ばれるものじゃないの?」
私がそう言うと、なぜか罰のあたったような顔で少しかなしげに笑う。
あれ、なんだか悪いことでもいったのかな。と不安になり少しだけ俯いた顔を覗きこむと、その人はまた笑った。今度は、申し訳なさそうに。
「あはは・・・俺、親いないんだ。孤児院の先生には下の名前で呼んでもらってたけど、もう俺一人暮らし始めたから・・・。」
あぁ、悪いこと聞いちゃったな。
その表情を見れば誰だってそう思うくらいに悲しげな顔のその人は辛そうだった。
そうか、そうくるのかと思う話だったが私も親はいないだけあってその気持ちは少しだけわかる気もする。
私も、なぜか生まれたころには父も母もいなくて祖母に育てられた。祖母が言うに、私の両親は病死していたらしい。父は私が生まれる前に重い病気を患わい、生活が苦しかった家庭では最後までお金を払うこともできず亡くなったという。母はもともと病気を持っていて、命と引き換えに私を生んだ。
そんなものは私が生まれて間もないことだからよくは分からないが、その変わり祖母に育ててもらえたのだから幸せな生活を送っている。
そう思うと、孤児院とは身内にも引き取ってもらえなかった人がいくのだろう。それはつらいことだ。
「だったら、名前くらい呼んであげる晴文」
つらいなら仕方がないけれど、名前を呼ぶなんてくらいなら協力はできる。
私は晴文の顔を見上げて言うと、晴文は嬉しそうに笑った。
名前は朝倉晴文というらしく、どうやら図書委員の委員長らしい。
朝倉晴文は変な人だ。少なくとも私はそう言える。何度も何度も私を「キノサダさん」とイントネーションが狂った読み方だ呼ぶものだからなんだか頭にきて、「紀之定」くらい普通に呼んで欲しいと言えば困ったように笑って「じゃあ下の名前で呼んでもいいかな?」と言ったものだからわけが分からなくなって許可してしまったくらい。
そもそも私はこんな人は知らなかったのだ。それなのになぜ私の名前を知っていてこんなにも親しげに話かけてくるのか全く分からず、正直今は混乱している。
人と話すのなんてただ一人の友達以外あまりいなかったのに、どうもこうぺらぺらと話しかけてこられるとこちらが悲しくなってきてしまう始末だ。
というかなぜ私はこの人と一緒に帰っているんだろう。
「キノサダさん」
「違う、紀之定。」
「あぁ、ごめんね。俺正直キノサダさんって呼びづらいなって思うんだけどさ、みんなは普通に呼んでるの?」
「私は・・・、友達も少ないから。だから名前なんて呼ばれることもないよ。でも友達には下の名前で呼んでもらってる」
信号を待っている今でもこの人は話しかけてきた。
しつこくはないけれど、なんだか自分がちゃんと話せているかが気になってあまり会話の内容が読めていない。
「じゃあ俺も下の名前で呼ぼうかな」
またへらりと笑いながらそういうその人はそう言うが、私はさっき許可をしたはずなのにまたなにを言うんだろうか。と、その笑顔を見つめながら思った。
「いいって言ったよね、さっき」
「だってキノサダさんなんだか雰囲気怖いんだもん。喋りかたもあんまり感情こもってないし・・・あ、もしかして俺と話してるのつまらない?」
「・・・どうしてそうなるのさ」
ころころ変わる表情に変な感情を抱きつつ、少々呆れながらそう言ってみるとその人はまたパッと笑いながらじゃあ俺のことも下の名前で呼んでいいよ、と柔らかい声で私に言った。
夕日の光も沈み、あたりがだんだんと暗くなって道も確認できなくなってくるのに、なぜかこの人の笑顔だけはちゃんと確認できるような気がして小さな声で変なの、と呟く。
その人は気づいてはいないようだったが、柔らかな表情でこちらを見るとなんでだか暖かくなる気がした。本当、わけがわからない。
男の人と帰るなんて、「彼」以外今までいなかったのにいきなりこうしてみるとおかしな気分だ。この人は「彼」じゃないのに。
「ねぇ、政。」
まつり、と私の名前が呼ばれる。
柔らかな声に顔を上げると、やっぱり微笑んでいるその人の顔がそこにはあった。
「なに?」
「晴文、って呼んでみてよ」
相変わらず微笑みながらそういうその人は、なんだか楽しそうな顔でこちらを見ている。
なんで私がわざわざそう呼ばなくてはならないのか、と少し面倒くさい気もしたがその人の名前である朝倉晴文わ思い出してみる。
晴文、はるふみ、ハルフミ。
何度か心の中でよんでみるとなんだかどこかくすぐったくて、言うのが少し変な気分がしてつらくなった。
「彼」の名前も呼んだことないのにね、と自分に言ってみてもそれはもとろん誰かが答えてくれるわけでもなくて。
ただ虚しく自分の中に響いて溶けるように消えた。
「・・・晴文」
少し間をあけて言うと、その人は照れくさそうに笑って私の髪がぐちゃぐちゃになってしまうほど頭を撫でる。私は訳が分からなくてなにするの、と言えばその人はなんでもないよといって手を離した。
頭の上から手の温もりが消え、髪を直している間もその人は小さく微笑んだまま。
どうしてそんなに笑うのかも分からない私にはあまりいいものには思えなくて、作り笑いをしているのではないかとも思うがもしそうだったらこの人にはすごい演技力がないとできないと思う。自然な笑顔には裏も表もなくて、でもなんだか大人っぽい純粋さがある気がした。
私にはそう笑うことは恐らくできないかと思う。
そりゃあ、面白いことがあれば笑うのかと思うけど、ことあるごとに微笑んだり、大きく笑ったり、悲しんだり、なんてできない。
しかもそれは純粋なものだなんてなおさらだ。
そんなことを考えていると、その人がまた口を開く。
「実は俺下の名前で呼ばれたこと、あんまりないんだ」
「親にくらい、呼ばれるものじゃないの?」
私がそう言うと、なぜか罰のあたったような顔で少しかなしげに笑う。
あれ、なんだか悪いことでもいったのかな。と不安になり少しだけ俯いた顔を覗きこむと、その人はまた笑った。今度は、申し訳なさそうに。
「あはは・・・俺、親いないんだ。孤児院の先生には下の名前で呼んでもらってたけど、もう俺一人暮らし始めたから・・・。」
あぁ、悪いこと聞いちゃったな。
その表情を見れば誰だってそう思うくらいに悲しげな顔のその人は辛そうだった。
そうか、そうくるのかと思う話だったが私も親はいないだけあってその気持ちは少しだけわかる気もする。
私も、なぜか生まれたころには父も母もいなくて祖母に育てられた。祖母が言うに、私の両親は病死していたらしい。父は私が生まれる前に重い病気を患わい、生活が苦しかった家庭では最後までお金を払うこともできず亡くなったという。母はもともと病気を持っていて、命と引き換えに私を生んだ。
そんなものは私が生まれて間もないことだからよくは分からないが、その変わり祖母に育ててもらえたのだから幸せな生活を送っている。
そう思うと、孤児院とは身内にも引き取ってもらえなかった人がいくのだろう。それはつらいことだ。
「だったら、名前くらい呼んであげる晴文」
つらいなら仕方がないけれど、名前を呼ぶなんてくらいなら協力はできる。
私は晴文の顔を見上げて言うと、晴文は嬉しそうに笑った。