止まない雨はない
車から彼女を下ろすために、賢吾が彼女に触ろうとした瞬間、
俺は無意識に賢吾の手を払いのけていた。


「俺が運ぶ…」


俺の言葉に目が点といわんばかりの賢吾はそれでも医者としても仕事をしようと、


「恭哉、俺は医者だ。お前とこの子の関係は知らんが、信用しろ。」


確かにそうだ。俺にはどうすることもできないから、電話をしていたのに…


「わりぃ…賢吾。俺の命なんだ。頼む…」


俺の言葉に賢吾の顔は分かったと言わんばかりに大きくうなずいた。


彼女を乗せたストレッチャーが救急のドアの中に入り、
俺はその廊下で待つことになった。


待っているときに、かおりたちに電話をしなければならないことくらい分かっていたのに、
それすら俺はできなかった。



すべての意識は彼女に向かっていたからだ。
< 163 / 197 >

この作品をシェア

pagetop