After the rain
「え、30なの?見えないねー。」


嘘でも、こう言ってもらえると少し嬉しい。

「じゃあ、俺は?いくつに見える?」
「えー?見た目は25とか6位?でももうちょっと下、かなー。」
「そうくるかー。」
「何で?大幅に外してる?」
「いや、大幅では無いよ。近い。28なんだよねー。」
「あ、そうなんだー!髪が明るいからかな?実年齢より下に見えたよ。」


キャップの裾から覗く髪が金髪に近い色だった。


「つーかさ、俺この間も携帯失くしかけたんだよねー。」
「そうなの?あ、そういえばあたしもこの間iPhoneの落し物拾ったよ?」


年齢が分かったせいか、2人の空気が暖まったせいか。


話し言葉が身近なものに変わった。




「そうなんだー。つーかマジで焦るよね!俺の時なんてさ、落とした時に大事な電話掛かってきててさ。あれもしあの時に拾ってもらって届けてもらえなかったら大変な事になる所だったんだよ。」
「そうなんだ。あたし拾った時もすっごい電話鳴ってた。多分、芸能人なのかな?ディスプレイにマネージャーって出てて、落とし主に手渡すまで4回か5回くらい連続で着信してたし。」
「え。」


彼は、そう言ったきり言葉の続きをなかなか発しなかった。
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