悪の皇女
―――――「抜け目がないですな。」
キャロライン皇女が去ったあと影から姿を現したのは軍の正装を赤く染めるローガンだった。仮面舞踏会に訪れた者の大半を殺めたのは彼だった。
「あら、最高の褒め言葉だわ。」
シニカルに微笑するイザベラ皇女。ローガン中将はイザベラ皇女がトリガーを引かなかった理由を察していた。
「これでキャロライン皇女様は、自ら命を落とされることはない。イザベラ皇女様への憎しみに囚われ、国境を超えるでしょう。」
「国境を超えたあとは、もう良い。知らせを受けた隣国の皇子、ダニエル殿がキャロラインを拾うだろう。あとはダニエル殿がキャロラインに傍にいてやればよい。」
恨みが強いほどキャロライン皇女が哀しみのあまり、御父様の後を追う危険はない。そして、大国で起きた残虐の悲報を受けたダニエル皇子は国境を超えると踏む。
一つ二つ先読みするイザベラ皇女様にローガンは内心感嘆した。