ある人々の恋愛
 葬式が終わった日から、私は少しずつ少しずつまるで完成されたパズルのピースが一つまた一つと剥がれ落ちていくように、彼とすごした思い出が無くなっていく気がして、そんな自分が恐ろしくなった。
 彼を思い出そうとすると、彼と別れた最期の日の出来事が頭の中で再生される。
なぜ私は、戻らなかったのか。なぜすぐ仲直りをしなかったのか。なぜ、好きだったことを言わなかったのか。
なぜ気づかなかったのか。
なぜ彼が死んで、私はのうのうと生きているのか。
 疑問は私の心をぐるぐると縛りつけ、罰を受ける子どものように絶望と不安が私を襲った。
 心は無力感にさいなまれ、体は鉛のように沈んだ。
 そんな私に残されたのは、彼の写真と男の子の人形だった。彼が私のプレゼントとして用意していたものらしく、手作りの人形は心なしか彼の分身のように思えた。
 (彼の自分の代わりに、この世に遺してくれた物)
 私はこの人形を、「あーちゃん」と呼んだ。死んだ彼の呼び名が「あーちゃん」だったから。
時折、「あーちゃん」と呼ぶと、彼の笑い声が聞こえてくる気がした。辛い時、悲しい時に「あーちゃん」を抱きしめると、心が落ち着いた。
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