ある人々の恋愛
 私は、新しい新居に引っ越して、1年が経った。あの後、様々なことがあったが、無事秋田君と結婚し、私は会社を辞めた。
 幸せな生活を送っている。あの人を失ってからは考えられないぐらいだ。
 ある日、あの人の母親が訪ねてきた。少し歳をとったように見えた。あの人が死んだ後大変だったのだろう。
「私ね、何で告白しないのかと言ったんだよ」あの人の思い出話になり、母親は私とあの人が別れる前の話をし始めた。
「誰が見たって、お互い好きなもの同士だって分かるくらいよ。看護婦さんも、かわいらしい彼女さんですねと言うくらい。それでただ友人だったなんてビックリしたわ」
 母親は嬉しそうに、時折切なそうに話した。私は、母親とあの人の会話を想像してみる。
「あの子なんていったと思う?」
「なんて言ったんですか」
 母親は少し間を空けて、話し出した。
「『俺は、いつまで生きられるか分からない。彼女を悲しませたくない』だってよ。あの子本当に馬鹿よね」母親は涙ぐみ、言葉を詰ませた。私も思わず、もらい泣きをした。彼の言葉がすっと心にしみ込んでくる。あの日のあの人の態度の意味がようやく分かった気がした。
 母親は最後に、あの人の手紙を私に渡してくれた。結婚したら渡して欲しいという遺言だったらしく、ようやく私に渡されたのだ。
 彼は最後まで、自分のことじゃなく、私のことを考えていたのだと思うと、余計切なくなり、いっそうあの人が愛おしくなった。
 手紙を開くと、手紙の字はまさしくあの人で、薬品の匂いがした。一文一文丁寧に読んでいくと、あの人がそばにいるような気がした。
最後の一文を読んだとき、私は愛おしさと、悲しさを同時に覚え、涙が溢れた。雨がとめどなく、私の心に降り注ぐ。
「ずっと好きだった。愛している。幸せになれ」
 「あーちゃん」も泣いているように見えた。

「バイバイ、あーちゃん」完
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