ある人々の恋愛
寂しいとは思っていない。可哀相な人間だとも思っていない。彼と会う前は独りきりだった。友人もあまりいなかった。実家には自分の居場所がなかった。
それに比べたら、今は全く寂しくない。私には彼がいるから。
 コンビニで買い物をすまし、アパートへの道を歩く。黒く照らされたアスファルトは、日中の太陽の熱を放出し、地面は生ぬるくほんの少し温かい。
大きな橋を独り歩く。橋の下から望む川に月がゆらゆらと揺れてぼんやりとした不安定な光が私を慰めた。
車がすっと横切り、まっすぐ駐車場に向かう。私は車を見送りアパートに着いた。
部屋の明かりをつけ、シャワーを浴びた。
冷たい水が私の体をすっと撫でまわし、ぽたぽたと雫となり排水口に流れていく。顔、唇、首筋、肩、腕、胸、尻、ふくらはぎ、足。彼はいつも私の体中を、芸術作品を取り扱うように優しく時には荒々しく触れてきた。うっとりと愛しく、そして怪しく目を光らせ、私の体を見つめた。
「誰にも触れさせない。君はぼくのものだ。愛している。狂ってしまうくらい君を愛している」
初めて彼と寝たとき、彼は私の体を包み込むような大きな体で、そっと抱きしめた。夜は長く長く感じられ、このまま明けないのかもしれないと思った。
 
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