ある人々の恋愛
 水を止め、服を着る。ベットに横たわり再びメールをみる。何度見ても変わらないことは分かっているのに。
 言わなければいけないことは分かっていた。もう終わりにしよう。今までありがとう、と。
返信のボタンを押し、メール文を打とうとしても、手が動かなかった。体が震え、悲しみと絶望が心にドロドロと、水溜りにどんどん流れてくる。
 独りは慣れていたのに、悲しみや寂しさは慣れていたはずなのに、どうして私は泣いているのだろう。蛇口が壊れ水が溢れ出てくるようだった。
 私は気づいてしまった。私の心には彼からの愛が詰まっていたこと。彼と会えないここ一ヶ月にその愛がもうなくなってしまったことを。そして、私も彼を愛していたことを。体にしみついた愛、ベットに残る彼の匂い、彼の優しい声、髪を撫で付ける手の温かみ、彼のいたずらな瞳、たくましい体と大きな腕。
 彼はもう忘れているのかもしれない。他の女を抱きしめていた時から。私は忘れない。忘れられない。
 あなたと愛し合った日々を。
< 4 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop