ある人々の恋愛
 愛しい君へ
 君と出会ったのは、あの残暑厳しい夏だった。大きな噴水の前で、茫然自失と景色の一部と化していた君は、ぼくの熱い熱い太陽のごとくそんな思いを知らなかったんだね。噴水で遊ぶ子どもがキャッキャと騒ぎ立てても、蝉がジジジジと鳴いていても、物ともしない佇まいでベンチに座っていた。
 太陽はぼくの頭上を大将のごとく攻め込んで、体中から水分という水分を飛ばした。頭の中は熱い鍋、そうキムチ鍋の赤いスープに他の具材と一緒に押し合いながら煮られているようだった。正常は判断ができない。危険だと感じていた。しかしそれが逆に良かったと今は思う。生来臆病な性質を持つぼくは、今まで恋愛感情を相手に抱いたとしても実行に移せなかったからだ。
 正常な判断ができぬまま、モヤモヤした頭でフラフラと君のいるベンチへと足は向かった。自動販売機で飲み物を買い、君へのプレゼントとした。
 「そんなところに座っていたら、倒れてしまうぞ」
 今でもよく君に言った第一声がこれだったとは、恥ずかしくて体中の毛をむしりとりたい気持ちにかられてしまう。
 だか君はそんなぼくの無神経な発言に気にとめず、「いいんです。私のことなんて、ほっといてください」とポツリと蚊が鳴くような声でいった。
私は君の声を聞いて、安心して立ち去ったのだ。もちろん飲み物を置いて。
P.S 君からの手紙嬉しかった。大切にするよ。愛している。
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