ある人々の恋愛
 名無しのもうどうでもいい人へ
 自殺をしていないようで、正直ほっとしています。別にあなたを心配しているのではなく、私とあなたの家族に迷惑がかかるのが可哀相だと思ってのことです。勘違いしないでください。
 私はよく、噴水のあるA公園の、あのベンチが指定席で座っています。ですので、いつの日なのか。昨年?今年?の夏なのかよく覚えていません、といいたいところですが、あなたの手紙を読んで思い出してしまいました。嫌ですね。思い出したくないのが本音です。だってあなたの妄想の話だったら相手にしなくてもいいのですが、私も体験した事実なら本物と認めざるを得ないから。
 しかしあなたの手紙に書かれている、いかにも青春、ひと夏の恋みたいな状況ではなかったと記憶しています。
今年の夏でした。私はちょうどあることに悩んでいて、ベンチでうなだれていたのです。あなたに私のプライバシーを語る筋合いはないので『あること』については説明を省きます。
 暑くて、飲み物が欲しいと思っていました。ふと立ち上がろうとした時、遠くからフラフラとした男が来るのが分かりました。いかにも怪しく、警察に通報しなければと思っていました。けれども太陽に体中の体力、気力が吸い取られ歩く力がありませんでした。
その男はついに私の座っているベンチにやってくると、偉そうにカツゼツが悪そうに何かを言っていた気がします。でも何か言わないと失礼かと思ったのと、これ以上話をしたくないのと、かろうじて気力が残っていたことがあり、あなたの手紙に書かれていた私の発言となるのです。
 でも今さらながら考えてみると、私のあの発言に対し、何も気にとめず安心して立ち去るって、男としていや人間としての良識を疑います。まあ実際その時の私は、あなたとこれ以上話したくなかったので、それはそれとしていいです。許します。ですが、あの後置いて言った飲み物、ホットの缶コーヒーでしたよね。あんな暑い中、なんな暑くてふたも開けられないような甘ったるいもの、飲めるわけがありません。あれはどっきりなのか。どこかでカメラでも仕掛けていて、後にドッキリでしたと驚かすつもりだったのでしょうか。ともかく、全く慰めにもならなかったです。
P.S ありがとうなんて言いませんからね
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