真夏の残骸
それは一瞬のことだったけど、周りの音が全て無くなった。
わたしときりのくんの心臓の音と息遣いだけが聴覚を支配しているようだった。
柔らかい唇は、その感触とは裏腹にわたしの心になにかを刻み付ける。
まるで、鋭利なモノで傷痕を残すように。
みーん、みーん、みーん。
蝉の音が煩い。
煩い、うるさい、おねがい、しずかにして。
きりのくんがもう、いなくなっちゃう。
縋り付くようにきりのくんの服の裾を掴むと、きりのくんの身体が震えているのがわかった。
「おねがい、おれのこと、わすれないで」
目を閉じていたけど、きりのくんがそう言って、泣いている気がした。