真夏の残骸
「…ばいばい、ちか」
わたしは返事ができなかった。
声の出し方を忘れたように、ただ、きりのくんを見つめていた。
きりのくんがそっと踵を返す。
小さくて狭い隠れ家から、出て行ってしまう。
―――きりのくんを隠してあげられたらよかったのに。
その背中をぼんやりと霞む視界に収めながら、わたしは静かに泣いた。
“ばいばい、また明日”
いつもきりのくんはそう言って帰るのに。
また明日、は?
言ってくれないの?
もうわたしたちに“明日”はないの?