真夏の残骸

「…ばいばい、ちか」


わたしは返事ができなかった。

声の出し方を忘れたように、ただ、きりのくんを見つめていた。

きりのくんがそっと踵を返す。

小さくて狭い隠れ家から、出て行ってしまう。


―――きりのくんを隠してあげられたらよかったのに。


その背中をぼんやりと霞む視界に収めながら、わたしは静かに泣いた。


“ばいばい、また明日”


いつもきりのくんはそう言って帰るのに。

また明日、は?

言ってくれないの?

もうわたしたちに“明日”はないの?
< 21 / 75 >

この作品をシェア

pagetop