真夏の残骸

…でも、でも、でも。

なぜか急に目元が熱くなって、鼻の奥がつんとした。

ばかみたいだ。

今でも蝉の音を聞くと思い出す。


「45ー46ー」


いつか大人になれば忘れられると思っていた。

あんな過ちみたいな、事故みたいな、おかしな口づけ。

所詮は小学生のままごとみたいな、恋愛の真似事。

だけど……大学生になっても覚えていたよ。

毎年夏になる度に思い出して、蝉の声が、煩くて。

心臓をぎりぎりと締め付けるこの感情は嘘じゃない。

幻想でもない。
< 56 / 75 >

この作品をシェア

pagetop