新撰組物語
運命の始まり
平安時代ーー。
日本は朝廷を重点とした貴族達が、政を行い、国を納めていた。
そして、これから始まる長くて、子孫さえも巻き込む果てしない運命の物語が今、始まろうとしていた……。
大きく列なる屋敷が何処までも続いており、入口さえも住んでいる者達がわからなくなってしまうことがあるような屋敷の中を、一人の男が歩いて行く。
男はとある部屋の前で立ち止まり、その場に座り身を屈めた。
「父上、【拓也】今参りました。」
「拓也か。お前にはこれから、地方へ行ってもらいたい。」
「えっ?」
「理由は分かるな?」
中は簾がかけられていて、拓也からは中が見えないが、傍に誰がいるのかは分かっていた。
父親の義理の母とその娘である。
娘とは歳が近かったため、幼い頃は拓也とよく一緒に遊んだものだ。
外から見れば仲の良い姉弟であったであろう。
しかし、いつしか二人は引かれ合うようになり、恋仲へと発展していくようになった。
だが、それは義理の祖母が企てた陰謀であった。
母親がおらず、父である天皇から愛される拓也を疎ましく思っていた祖母が、娘を唆し拓也を陥れたのだ。
その事は拓也と重臣の【弘世】しか知らないのだ。しかも、訴えようにも陰謀だという証拠がないため、訴えようがなかったのだ。
そんな訳で、父親からの信頼を失うことになり、朝廷から追い出されようとしていたのだ。しかも、天皇の息子という身分も捨てなければならないのだ。
悔しいやら情けないやら、あらゆる気持ちが入り混じったまま、拓也は返事をした。
「……はい。」
天皇には絶対に従わなければならない……。
拓也は討ちひしがれる思いの中、生まれ育った都を後にした。
一方、拓也の受け入れ先である地方の豪族の屋敷では、その家の一人娘である【霧野美月】がいた。
朝廷の貴族のように、女の下働きが大勢控えているわけでもなく、身の回りのことなど自分でこなしていた。
雄一、自分の世話をしてくれる者は、幼い頃から友達のように育った侍女一人だけである。
それでも、幸せに暮らしていた方である。
「姫様ーー!姫様ーー!!」
侍女がバタバタと美月の部屋へと駆け込んでくる。
「どうかしたの?」
「都から来られますよ!」
「来られる?誰が?」
「天皇の御子息、拓也様ですよ!」