新撰組物語
「拓也様が?どうして、こんな所に?」
ここは都から遠く離れた地方の村。
天皇の息子が来るような場所ではないのである。
「訳は存じませんが、とにかく来るみたいですよ!それに…、」
侍女は美月の側に近寄り、耳打ちをする。
「もしかしたら、姫様の旦那様になるかもしれまんよ…!」
「!!」
美月の顔が一気に赤くなる。
「な、なんて事を言うの!」
「それじゃあ、頑張って下さいね!!」
蔓延の笑みでにこりと笑うと、侍女は早足で去って行く。
「こ、こら!」
追いかけようとしたが、またからかわれるだけだ。
それに、美月自身も満更ではなかったのだ。
いよいよその時を迎え、美月の住む屋敷へと拓也の一団がやって来る。
美月の父親は人当たりもよく、誰でも迎え入れてしまうという大きな器の持ち主であった。
その上、父はなんと拓也を美月の夫に迎えようとしてしていたのだ。
侍女だけならともかく、まさか実の父親までに言われることになるなど、夢にも思わなかったが、美月の思いには確かに、拓也が気になる存在となっていた。
拓也の一団が屋敷に到着し、父親を始めとした屋敷の者達が出迎える。
「おおー!これはこれは拓也様、わざわざ都からここへとよく来て下さいました!」
「これは【霧野】殿。お迎えありがとうございます。皆様はお元気でいらっしゃっいますか?」
「はい!皆、元気にやっておりますぞよ!」
霧野と拓也は握手をし、挨拶をすませる。
「さぁさぁ、上がってくつろいで下さいませ。長旅で疲れましたでしょ。皆様を部屋へご案内せよ!」
霧野は後ろで控えていた侍従達に指示を出し、一団の者達を中へと案内して行く。
「さぁ、拓也様も。」
「いや、私はいい。それよりも屋敷を案内してはくれないか? そなたの屋敷は桜がとても綺麗だと聞いていた。」
「おお!これはまた、拓也様にお見せになることになるとは、誠に光栄なことですぞ!さぁさぁ、どうぞ。ご案内いたしましょう。」
「【弘世】お前も来い。」
「はい。」
拓也は部下一人を連れて、霧野の案内を受けながら、屋敷内にある天園へと向かった。
一方、美月は落ち着かない様子であった。
いつもしている繕い物も、集中出来ずにいた。
今までお見合いの経験すらない美月。