新撰組物語
拓也がどんな人なのか気になる。
父親や屋敷の者達まで注目し、夫にさせようとしている人物。
本当は父親達と一緒になって、拓也に会ってみたいのだが、年頃の娘がむやみに外に出るわけにはいかない。
とにかく、会える時を待つしかなさそうだ。
「…………。」
とは……思うものの………。
気になるものはやはり気になる。
美月は周りに誰もいないことを確認し、こっそりと部屋の外へと出た。
一方で、拓也は霧野の案内で桜を見物していた。
「本当に見事な桜ですね。」
色鮮やかに咲き誇る桜を愛でる拓也。
ここまで綺麗に咲いた桜は宮廷以外では見たことがなかった。
「それはよろしゅうございました。さぁ、こちらへもどうぞ。」
案内する霧野も拓也に気に入ってもらってとても嬉しいようだ。
先を先導して行く霧野。
「ん…?」
拓也は先を行く足を止める。
屋敷内の区切りなのか、石垣の向こうに大きな桜の木と池があった。
そして、その桜の木の陰に隠れるように、一人の女性がこちらを見ていた。
この出会いこそが、後々子孫さえ巻き込むことになる運命の始まりであった。
こっそり部屋を出た美月は、偶然にも父親と一緒にいる拓也を見つけてしまう。
「……!」
慌てて桜の陰に隠れる美月。
そっとその姿を確かめる。
青い着物を着ていて、凛々しい顔立ち、それに優しい澄んだ瞳……。
思わずその姿に見とれてしまう。
間違いないこの人こそが、都から来たという拓也だ。
そう見とれていると、こちらに気づいたのか、拓也が美月の方を見た。
慌てて木の陰に隠れる。
すると、父親の声が聞こえてくる。
「どうかなさいましたかな?」
「いえ…、あちらの庭の桜もとても綺麗だったので、つい見とれてました。」
「そうですか、あっちは私の娘の部屋がある建物ですから、村で一番綺麗な桜を植えたのですよ。」
「そうですか…。」
今は隠れてしまっているが、拓也の目には映っていた。
桜のように、それ以上に綺麗な娘。
まるで桜の使いのような、そんな娘であった。
だが、今は言わない方が言いだろう。
恥じらい身を隠す女性の居場所をばらすなど、そんなことできるはずもない。
「気に入りましたか?」
「はい、とても気に入りました。」