新撰組物語
「それは良かったです。では、こちらへ。」
拓也達は霧野について行った。
次第に足音が遠退いて行く。
「はぁ~。」
一気に身体の力が抜けてしまい、木に寄り掛かるようにして、その場に座り込んでしまう。
まさか、あの方が拓也だったとは…。
今だに信じられない。
それに、さっきから胸の鼓動が速くなっている。
見つかりそうになって驚いた時のものではない。
こう…もっと熱くて、胸を締め付けるもの。
「…………まさか、私本当に……?」
自分でも疑問に思ってしまうが、確かに胸の中で今までに感じたことのないものを感じる。
興味本位で見に行っただけなのに、まさかこんなに簡単に……。
美月は顔を上げ、満開に咲く桜の花を見上げた。
「………。」
あの桜にあうような人……。
だが、美月と拓也は身分違いであり、女にあるまじき姿を見せたばかりである。
「…………あの人が私なんか、相手にするわけがないわ…。」
それに宮廷から来たのなら、都には沢山の女達がいる。
こんな田舎にいるような豪族の娘を貴族の男が本気で相手にするわけがないのだ。
想いを寄せたところで、遊ばれるだけだ。
そう考えていると、侍女の声が聞こえてくる。
「姫様ー!姫様ーー!」
そろそろ部屋に戻らなければならない。いつまでも想いに耽ってはいられない。
美月は自分の想いを無かったことにし、部屋へと戻って行った。
一方で、自分達の部屋へと戻って来た拓也と弘世は広い部屋で同室であった。
弘世は荷物の整理をすると、文机に書き物の用意をする。
「何をしている?」
「拓也様!いえ、これは…なんでもございません!」
後ろの拓也に見られないように、慌てて紙を腕で隠す弘世。
どうやら誰かに手紙を書いていたようだ。
「そうか、ならいい。そういえば、お前はこういった場所で育ったのだったな。懐かしいだろ?」
拓也は手紙が見えない位置に座る。
「いえ、私には拓也様の側が一番ですから。」
「とはいえ、お前もそろそろ身を堅めなくてはならない年だろ?どうだ、ここら辺で気に入った娘でも見つけて、祝言を上げたらどうだ?」
「拓也様?」
「なんなら、私が見つけてやってもいいぞ?」
これは偶然なのか、思っていたことをサラリとと拓也の方から言ってくれた。