冷たい世界の温かい者達
広い。
無駄に広い校舎の廊下と階段を歩いてかれこれ10分は経っている。
そんな時間にイライラしだした俺達の耳に、静かな足音が聞こえた。
俯きかけていた顔を上げると、前方に居る…………
……地味女。
ここは、不良高のはずだよな?
唖然としながら皆でそいつを見ていた。
秋谷はそいつに気づいて顔を綻ばせた。
「由薇~!」
由薇、と呼ばれた地味女は俯かせていた顔を上げて俺たちに顔を向けた。
だが、顔面は長く黒い前髪で見えなかった。
かろうじて鼻と口が見える程度。
秋谷はニコニコと今までにないくらい嬉しそうに女に近づいた。
「由薇、また理事室か?」
『……うん』
「また、交渉行ったのか?」
『……うん』
「……話、聞いてないだろ?」
『……うん』
「由薇ぁぁぁあ‼」
悲しそうに叫ぶ秋谷は地味女に抱きついた。
地味女は黒い艶やかな長髪を振り乱しながら華奢な体をよじらせていた。
……よく見れば、小柄で180〜182cmほどの秋谷の胸より下らへんに頭がある。
『鬱陶しい。
サッサと転校生連れてきなよ。志織がご立腹だったよ』
「お、おう。
そうする……」
急に顔が青冷めた秋谷はまた、ブツブツと呟いていた。
その隙に秋谷の腕から逃げ出した地味女は俺達を見た様な視線を送ってから秋谷の横を通り過ぎた。
「あ、由薇、志織と啓さんは?
居たか?」
『啓さんは居なかった。
志織は居たよ』
さっきも言ったとおりね、と冷めた物言いをする地味女。
……だが、この学校の生徒に怯えられている(らしい)秋谷にあんな物言い…
少し興味が湧きながらも、先を急ぐ秋谷に後をついて行った。