【完】るーむしぇあ。

「ちょっと吹いてみてくれる?」


先輩の声に静かにうなずいて、木下美波はフルートを構えた。


私だけではなく、他の先輩たちも緊張しながら彼女を見つめる。

同じパートの人数が増えるということはすなわち、ライバルが増えるということ。


夏のコンクールに向けて少しずつ練習が進んで行く中で、彼女の登場は私だけでなく、他のメンバーにも少なからず影響を与えている。

パートリーダーが練習曲の楽譜を開き、彼女の前に差し出す。

メトロノームが均一なリズムを刻んで、彼女は静かに息を吸い込んだ。


「……」


最初の1フレーズだけで、ちゃんとした練習を積んできたんだと分かる。


とても正確で、隙のない演奏だった。
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