オジサンが欲しい
【前】雌鶴 ーメヅルー
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寺尾(てらお)は淡白な眼で、レジから自動ドアの方を見つめていた。
都内のコンビニエンスストアだけに、普段は休む間も無く次々と客がやってくる。
しかし、今日はなぜか客がひどく少ない。
珍しいこともあるものだと、寺尾は肩をそびやかす。
五年間ここに勤めてきた寺尾だが、これほどまでに店が空いていることは滅多にない。
高校卒業から勤めていた会社が倒産し、どこかの中小企業への再就職も叶わず、コンビニエンスストアの契約社員になって、はや五年。
寺尾はとうとう今年で三十路を迎え、冴えない独身の中年男性の道を突き進んでいた。
(若い頃は、こんなんじゃなかったのになあ)
思い返して、寺尾はため息をついた。