オジサンが欲しい
【中】目吊る ーメヅルー
*
ばちり、と背後から音がしたのを覚えている。
その直後、全身を駆け巡った、経験したことのない衝撃も。
気を失う直前に見た、綺麗な赤いチェックのスカートも。
失神直前に見たものにもかかわらず、寺尾はその記憶を鮮明に思い出していた。
ぱちり、と寺尾は目を覚ました。
眼前に、見たことのない光景が広がっていた。
クマやウサギといった、小型のぬいぐるみが、壁際に置かれたタンスの上に座らされている。
そこだけではない。
ベットの枕元や小ぶりなテーブルの上、さらには本棚にまで、大小さまざなまぬいぐるみが置かれていた。
部屋の中は、どうやらアパートの一室らしい。
桃色や白色で彩られた可愛らしい部屋で、奥には小さなキッチンまである。
まるで、幼い少女たちが秘密基地として、ここに宝物を集めて飾ったような部屋だった。
(ここは?)
どこだろう。
寺尾は起き上がろうと身を起こした。
しかし……起き上がれない。
床に手をつこうとして、寺尾は愕然とした。
先ほどから妙に体が圧迫されていると思えば、なんと、体に縄を巻かれていた。
胸元を重点的にきつく締めた縄は、複雑にかつ精密に絡み合い、背中で両腕を括っている。
「は……?」
寺尾は言葉も出ない。
足は自由だが、荒縄で縛られているため、身動きが取れない。
しかも。
なんのためなのか、ベットの真横に床から突き出た鉄の棒があり、それに縄を巻きつけられている。
まるで飼い犬のようだった。