オジサンが欲しい
いつしか、子供を誘拐し、一ヶ月の間自室に閉じ込めるサイコパス映画を見た記憶が脳裏をよぎる。
サイコパスというよりも、ピグマリオン症候群を題材にしたような映画だった。
人形遊びを禁じられた男が、体の小さな子供にいろいろな服を着せ替え、人形で遊ぶかのように育てる。
性の対象ではなく、あくまで人形として扱うための誘拐だった。
だが、あれはもちろんフィクションである。
しかも子供を誘拐するならまだしも、寺尾は子供ではない。
細身なれど、脚も長く長身な方だった。
そんな三十路の中年男を、誰が攫おうなどと考えるか。
現実的に考えて金銭目的の誘拐だとしても、見るからに貧乏そうな寺尾を攫う理由がない。
寺尾自身、こんな目に遭うようなことをした覚えはなかった。
その時、
ーーーぎい、
と、アルミ製のドアが静かに開けられた。
誰がが、部屋に入ってきたのだ。