牙龍 私を助けた不良 下
エレベーターから降りると、今更ながらに初めて緊張してきた。
雫を拭った手に汗が滲む。目を閉じて深呼吸を何度か繰り返すと、ゆっくりと前を見据える。
立ち止まるわけにはいかない。凜華はどんなに苦しくても、立ち止まらなかったとあの人は言っていた。
出口など見えない迷宮の中で、狂ってしまった彼女は、それでも一人で全てを背負ってきた。
・・・だからこそ、凜華を大切だと思うからこそ、痛みを少しでも和らげてやりたい。
彼女がどれだけ言いたくないことでも、思い出したくないことでも。
あの日、凜華が俺を助けてくれたように、今度は俺が凜華を助けてやりたい。