牙龍 私を助けた不良 下
傍にはミライがいて、そんな主人の様子を下からじっと静かに見上げている。
俺は声を掛けようとしたが、すぐにやめた。掛けるべきではないと思ったからだ。
「・・・・・」
「やっぱり来たんだね、木藤」
凜華は振り向くことなくそう告げた。ガラス窓に、二人の姿が写り込む。
膝に顔を埋めたまま、微動だにしない彼女に近付くと、肩が小さく震えていた。
寒いのか泣いているのか、それは分からないが、おそらくどちらも当てはまるのだろう。
「いつか、教えるって言ったよね。多分、少しくらいはもう知ってるかもしれないけど」
「・・・あぁ」
「──本当は、まだ言えそうにない。あの日のこと、思い出すだけでも・・・自分がおかしくなるって分かるから」
「・・・・・」
「痛みを忘れるくらいの痛みが、欲しくなる。まるで、血に飢えた獣みたい」