牙龍 私を助けた不良 下
嫌なら嫌って言えば良かっただなんて思うけど、我儘なんじゃないかと思ったから何も言えなかったんだ。
誰にも何も言わないままで、あの町から一人飛び出して、思い出も置いて、全て背負ったままじゃ『緋姫凜華』に還るには遠くて。
誓い合ったことだけを二つのロザリオに込めて、愚かにも自分からあの二年間の生活を全てを遠ざけた。
「怖かったの、」
現在が過去になって、その過去が思い出になって──最後には、思い出が消えていく。
ひなたが、『過去』になって失われてしまう。『思い出』は、いつか忘れてしまうから。
「忘れたくないの、」
嬉しそうな顔、楽しそうな顔、悲しそうな顔、焦ったような顔、泣きそうな顔、心配そうな顔──太陽みたいなひなたの笑顔が私は・・・
「大好きだったのに・・・っ」